Building Fundamental Law Council

建築基本法試案

2010年5月に開催したシンポジウムに基づき、建築基本法の試案を作成しました


建築基本法試案(PDFファイル)

建築基本法試案(平成22年5月18日試案)

建築基本法制定準備会 幹事会研究グループ

目次

前文
第一章 総則(第一条―第一二条)
第二章 質の高い建築づくり基本計画(第十三条―第二十条)
第一節 質の高い建築づくり推進委員会(第十三条―第十七条)
第二節 質の高い建築づくり基本計画(第十八条-第二十条)
第三章 質の高い建築づくりに関する基本的施策(第二十一条―第三十一条)
第一節 国の施策(第二十一条―第三十条)
第二節 地方公共団体の施策(第三十一条)
附則

前文
建築は、国民の生活の基盤であり、また社会環境を構成する大きな要素である。自然との調和、地域における社会文化、歴史的遺産や伝統の尊重、さらには経済の持続的発展といった国民の基本的な願いを実現するうえで、建築の役割は極めて大きい。

しかしながら、経済的繁栄を優先したために国土の多くを建築物によって占有し、美しく豊かとは言いがたい社会環境を生み出すことがあったことも否定できない。また、建築のあるべき基本理念を十分に顧みることなしに改編を繰り返した建築関連法規によって、法制度上の不整合や学術的な齟齬が生じ、建築の質の向上をさまたげている現状もある。

一方で、一部の事業者や専門家の建築の基本理念を逸脱した行為が、美しい町並みと調和のある国土の形成を阻害し、ひいては建築関連業務への国民の信頼を失わせてきたことも事実といわざるを得ない。このような事態に対処するためには、建築に関わる者すべてが、建築に関する基本理念について改めて確認し、その責務を自覚することが不可欠である。

ここに、建築が安全で美しく豊かな社会環境形成に寄与するための基本理念を宣言し、その基本理念を実現するための各主体の責務を明らかにすることにより、もって健康で文化的な生活の確保に寄与し、私たちの社会の持続的発展と公共の福祉の増進に資するために、建築基本法を制定する。

第一章 総則

(建築基本法の目的)
第一条 この法律は建築物の基本理念を定め、それに関わる関係者の責務を明らかにすることにより、健康で文化的な生活の確保に寄与し、私たちの社会の持続的発展と公共の福祉の増進に資することを目的とする。

(安全の確保)
第二条 建築物は、地震、強風、積雪、土水圧等の自然の作用及び使用に伴う人為的な作用に対し、その用途、敷地の状況及び立地条件等に照らして十分に安全なものでなくてはならない。

(健康への配慮)
第三条 建築物は、その使用者の健康で文化的な生活に、十分に配慮されたものでなくてはならない。

(環境への配慮)
第四条 建築物は、地域社会の構成要素であることに鑑み、立地条件、周辺の町並み及び自然の景観に配慮されたものでなくてはならない。また、建築物は、その建設、使用及び解体に際して環境への影響に配慮したものでなくてはならない。

(建築物による社会資産の充実)
第五条 建築物は、社会的存在であり、長期間にわたる使用を前提として建設されるものであるがゆえに、その構成要素の状況、使用の状況、立地条件及び周辺の環境に応じて、適切な維持管理・運用がなされなくてはならない。

(国および地方公共団体の責務)
第六条 国及び地方公共団体は、第二条から第四条に定める基本理念(以下「基本理念」という。)が実現されるための施策を策定し、これを実施する責務を有する。

2 国及び地方公共団体は、その施策において、基本理念に合致しない建築物が出現しないことを確保し、基本理念に合致しない建築物が存在している場合には、改善させる責務を有する。

3 国及び地方公共団体は、その施策において、基本理念を実現するために、地域社会の意思が適切に反映されるよう努めなくてはならない。

4 国及び地方公共団体は、その施策において、建築物に関する技術の発展に資するよう配慮するとともに、それが基本理念の実現のために適切に発揮されることを推進する責務を有する。

(建築主・建築物の所有者・使用者等の責務)
第七条 建築主は、自らの責任において、その建築しようとする建築物を基本理念に合致したものとする責務を有する。

2 建築物を所有しようとする者は、自らの責任において、その所有しようとする建築物が基本理念に合致したものであることを確認する責務を有する。

3 建築物の所有者・使用者等は、自らの責任において、基本理念に基づいて、その所有し、管理し、又は占有する建築物を良好に維持管理し、目的に合致する運用をする責務を有する。

(事業者の責務)
第八条 建築にかかわることを業として行う事業者は、専門家の有する建築物に関する専門知識に基づき、それぞれの事業において、建築主又は建築物の所有者等の信頼に応えるとともに社会の信託に応えて、基本理念をよりよく実現するよう努める責務を有する。

(専門家の責務)
第九条 建築にかかわる専門家は、基本理念の実現における専門知識と技術の役割を自覚し、自律と公正を旨として建築主、建築物の所有者等若しくは事業者の信頼に答えるとともに、あわせて社会の信託に応えることによって、基本理念のよりよい実現に誠実に貢献する責務を有する。

(国民の責務)
第十条 国民は、国又は地方公共団体が実施する質の高い建築づくりに関する施策に協力する等、基本理念の実現に寄与するように努めなければならない。

(法制上の措置等)
第十一条 政府は、質の高い建築づくりに関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。

(年次報告)
第十二条 政府は、毎年、国会に、質の高い建築づくりの動向及び政府が建築まちづくりに関して講じた施策に関する報告を提出しなければならない。 2 政府は、毎年、前項の報告に係る質の高い建築づくりの動向を考慮して講じようとする施策を明らかにした文書を作成し、これを国会に提出しなければならない。

第二章 質の高い建築づくり基本計画

第一節 質の高い建築づくり推進委員会

(設置)
第十三条 内閣府に、質の高い建築づくり推進委員会(以下「委員会」という。)を置く。

(所掌事務)
第十四条 委員会は、この法律に定める質の高い建築づくりに関する基本的事項について調査審議し、その結果に基づいて、次節に定める質の高い建築づくり基本計画の作成のための具体的な指針を内閣総理大臣に勧告する。

2 委員会は、質の高い建築づくり基本計画に基づく施策の実施状況を監視し、その結果に基づき内閣総
理大臣に必要な意見を述べる。

(国会への報告)
第十五条 内閣総理大臣は、前条第一項の勧告を受けたときは、これを国会に報告するものとする。

(組織)
第十六条 委員会は委員7人を持って組織する。

(委員)
第十七条 委員は質の高い建築づくりに関する優れた見識を有するもののうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。
2~7 略

第2節 質の高い建築づくり基本計画

(質の高い建築づくり基本計画)
第十八条 政府は、次章に定める質の高い建築づくりに関する基本的施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、質の高い建築づくり基本計画を定めなければならない。

2 質の高い建築づくり基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 質の高い建築づくりに関する施策についての基本的な方針
二 質の高い建築づくりに関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
三 前二号に掲げるもののほか、質の高い建築づくりに関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項

3 質の高い建築づくり基本計画は、国土の利用、整備及び保全に関する国の計画との調和が保たれたものでなければならない。

4 内閣総理大臣は、あらかじめ前節に定める委員会の勧告に基づき、広く国民の意見を聴いて質の高い建築づくり基本計画の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。

5 政府は、前項の規定により閣議の決定をしたときは、質の高い建築づくり基本計画を国会に提出して、その承認を受けなければならない。

6 内閣総理大臣は、前項の規定による国会の承認があったときは、遅滞なく、質の高い建築づくり基本計画を公表しなければならない。

7 政府は、質の高い建築づくりをめぐる情勢の変化を勘案し、及び質の高い建築づくりに関する施策の効果に関する評価を踏まえ、おおむね五年ごとに、質の高い建築づくり基本計画を変更するものとする。

8 第四項から第六項までの規定は、質の高い建築づくり基本計画の変更について準用する。

(都道府県質の高い建築づくり基本計画)
第十九条 都道府県は、当該都道府県の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた質の高い建築づくりに関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、都道府県質の高い建築づくり基本計画を定めなければならない。

2 都道府県質の高い建築づくり基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 都道府県の区域における質の高い建築づくりに関する施策についての基本的な方針
二 都道府県の区域における質の高い建築づくりに関し、当該都道府県が総合的かつ計画的に講ずべき施策
三 前二号に掲げるもののほか、都道府県の区域における質の高い建築づくりに関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項

3 都道府県質の高い建築づくり基本計画は、国の質の高い建築づくり基本計画との調和が保たれたものでなければならない。

4 都道府県は、都道府県質の高い建築づくり基本計画を定める場合には、あらかじめ、国の関係地方行政機関の長及び関係地方公共団体の長その他の執行機関並びに住民の意見を聴くとともに、当該都道府県の議会の議決を経なければならない。

5 都道府県は、都道府県質の高い建築づくり基本計画を定めたときは、遅滞なく、これを内閣総理大臣その他関係行政機関の長に報告し、並びに当該都道府県の区域内の市町村の長に通知するとともに、これを公表しなければならない。

6 都道府県は、当該都道府県の区域における質の高い建築づくりをめぐる情勢の変化を勘案し、及び当該都道府県の区域における質の高い建築づくりに関する施策の効果に関する評価を踏まえ、おおむね五年ごとに、都道府県質の高い建築づくり基本計画を変更するものとする。

7 第四項及び第五項の規定は、都道府県質の高い建築づくり基本計画の変更について準用する。

(市町村質の高い建築づくり基本計画)
第二十条 市町村は、当該市町村の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた質の高い建築づくりに関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため必要があると認めるときは、市町村質の高い建築づくり基本計画を定めなければならない。

2 前条第二項から第七項までの規定は、市町村質の高い建築づくり基本計画について準用する。この場合において、同条第三項中「質の高い建築づくり基本計画」とあるのは「質の高い建築づくり基本計画及び都道府県質の高い建築づくり基本計画」と、同条第五項中「内閣総理大臣その他関係行政機関の長に報告し、並びに当該都道府県の区域内の市町村の長に通知する」とあるのは「当該市町村の属する都道府県の知事に報告する」と、同条第七項中「第四項及び第五項」とあるのは「次条第二項において準用する第四項及び第五項」と読み替えるものとする。

第三章 質の高い建築づくりに関する基本的施策

第一節 国の施策

社会資産・文化資産として質の高い建築とまちづくりを推進する政策
(質の高い建築とまちづくりを推進する施策等)
第二十一条 国は、質の高い建築とまちづくりに関する地域主権の確立と基準整備、規制の合理化、美しく豊かなまちなみの整備推進のために必要な措置を講ずるものとする。

(質の高い建築への優遇制度等)
第二十二条 国は、質の高い建築への優遇制度や信頼できる評価制度の確立と育成のために法的条件の優遇・税制措置その他必要な措置を講ずるものとする。

(建物を安心して購入し、長く使い、継承していけるための制度等)
第二十三条 国は、建物を安心して購入し、長く使い、継承していけるための情報開示制度の確立のために、性能等級・関係者・維持管理履歴の情報公開、重要事項説明の拡充、安全性等性能等級の明確化その他必要な措置を講ずるものとする。

(既存建築物関連の法令整備)
第二十四条 国は、既存建築物関連の法令を整備し、個別の建築物の特性に合わせて柔軟に運用できる制度を確立するために、用途変更・増改築関連法規の整備、良好に維持管理された建物の法的条件の優遇な必要な措置を講ずるものとする。

(建築関連法体系の抜本的改正等)
第二十五条 国は、建築基準法その他建築関連法規を一般国民に理解しやすいものとして体系を整えるために、規制事項の見直し及び法改正を含む必要な措置を講ずるものとする。

2 国は、建築基準法単体規定・集団規定それぞれのあり方と建築確認制度の見直し、許可・認可の仕組みの導入、都市計画法改正との連動その他必要な措置を講ずるものとする。

3 国は、建築基準法、建築士法、建設業法その他の建築関連法規全体の見直しを行い、関係者の権利と責任を明示し、国と地方公共団体の役割分担、建築主・開発事業者の権利と義務、責任の明確化と専門家の資格制度の改正および専門家責任の裏付けとなる保険制度の拡充のために必要な措置を講じるものとする。

4 国は建築・まちづくり関連法制度の整理統合を行い、住民参加型の仕組みづくりと消費者、利用者、建築主、専門家らのコンセンサス形成ルールの創設のために必要な措置を講ずるものとする。

信頼できる専門家をつくり、住民参加と高度な専門性の役割分担でまちづくりを進める施策
(地域住民と専門家の協働によるまちづくりのための新たな制度等)
第二十六条 国は、まちづくりへの地域住民の参画を促進するとともに、公共的価値を担う専門家をまちづくりに活用する制度の創設等必要な措置を講ずるものとする。

2 国は、専門家制度の抜本的改正と継続的教育システムづくり、自浄機能を持つ専門家団体の育成のために必要な措置を講ずるものとする。

3 国は、専門家・事業者の責務と権限、報酬などの見直しと業務内容・契約制度の整備、専門家・事業者に関する情報開示等のために必要な措置を講ずるものとする。

4 国は建築産業の健全な育成のために必要な資格等を定め、業務環境を改善して職業としての魅力を高めるとともに、従事者を継続的に育成する仕組みづくりのために必要な措置を講ずるものとする。

建築・住宅・まちづくり産業を、次世代の地域基幹産業として育成する施策
(伝統木造建築の継承と活用等)
第二十七条 国は、伝統木造建築の継承と活用の施策、伝統技術の継承、地域社会の産業基盤として育成のために必要な措置を講ずるものとする。

(既存の住宅資産の活用等)
第二十八条 国は、既存の住宅資産を活用した、居住・生活と介護・医療を一体にした地域基盤施設ネットワークの構築、地域社会の安心と安全を担う社会的基盤の構成と地域の人材を活用する仕組みづくりその他新しい社会システムの構築のために必要な措置を講ずるものとする。

(新しい不動産マーケットの創出等)
第二十九条 国は、良好に維持管理された建築物が人々のライフサイクルに合わせて活用される、新しい不動産マーケットの創出のために、建築物の合理的な資産価値評価技術の確立、健全な建築流通市場の整備その他必要な措置を講ずるものとする。

(高度技術の確立とトップランナー政策)
第三十条 国は都市全体を対象にした複合的な環境技術、建築の常識を変える高度技術の確立をはじめとする、わが国の建築・まちづくり産業が世界の都市・建築作りのトップランナーを目指す政策のために必要な措置を講ずるものとする。

第二節 地方公共団体の施策

(地方公共団体の施策)
第三十一条 地方公共団体は、前節に定める国の施策に対応した施策及びその他のその地方公共団体の区域の自然的経済的社会的諸条件に応じた質の高い建築づくりに関する基本的施策に関して必要な施策を、これらの総合的かつ計画的な推進を図りつつ実施するものとする。

附 則
この法律は、公布の日から施行する。

法案提出の理由
建築基本法制定の趣旨:
1950 年に制定された、建築基準法と建築士法は、今日の建築にかかわる業務実態や社会状況と大きくかけ離れたものになっています。最低基準を規定し画一的な確認行政で効率的な建設を促進した時代から、質の高い建築を長く使う時代へと、行政の役割も専門家の役割も大きく変ってきています。社会的な事件発生のたびに行政の立場から法律を部分的に書き換え、書き加えることによる対応では、もはや限界に来ているという認識は、広くなされていると思います。今こそ「21 世紀にふさわしい建築の理念とは何か」を国民の立場で確認し、それを達成するための関係者それぞれの責務を明らかにすることが求められていると考えます。

これまでに環境基本法、土地基本法、景観三法等に加え、住生活基本法も制定されました。いま建築およびまちづくり全般に対しても、基本法が是非必要であると考えます。質の低い建築の存在、建設業の空洞化、下請け構図における無責任体制、安全・健康確保の問題、環境配慮の問題、職能倫理の問題など国土交通省を超えた課題、また建築にかかわる法体系が複雑になり、混乱をきたしている状況を変えるための起点としての位置づけもあわせて、建築基本法の制定を提案するものです。

建築基本法の役割:
建築にかかわる理念として、社会における建築のあるべき姿、実現されるべき価値を明らかにした上で、関係者の責務(果たすべき責任と務め)を明確化し、その社会的価値を実現する上での役割分担を合意することが、建築にかかわる法体系の整備の前提になくてはなりません。そのような合意形成が基本法の形でなされた暁には、他の関連基本法も参照しつつ、すべての個別法の見直しを行い、国や地方自治体の政策に反映し、また関係者の実現へ向けての実行が期待されるものとなります。

個別法の整備としては、用途や規模を規定する集団規定と個々の建築物の安全や健康にかかわる単体規定は一律に建築基準法の中で扱うのでなく、前者は地方自治体における住民の合意をもとに社会ルールとして規制し、後者は国の基準として必要最小限の規制にとどめるべきです。特に安全や健康、地球環境配慮などの達成は職能や民間基準に任せ、国の関与を極力減らすことが、関係者の役割を明確にし、質の高い建築を生むことにつながると考えます。また、既存建築物についての維持管理規制のあり方を検討し、用途・規模に応じて環境に配慮した政策を総合的に展開する必要もあります。民法、税法、建設業法、宅地建物取引業法など建築にかかわるすべての法についても、建築の価値、環境配慮、関係者の責務の視点からの見直しが必要となると考えます。

これが建築基本法を提案する理由です。

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