国土交通省「超高層建築物等における南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動への対策案について」(平成27年12月18日付け)の意見募集に対して、建築基本法制定準備会では下記の様な意見書を提出しました。(参考:国土交通省「超高層建築物等における南海トラフ沿いの巨大地震による 長周期地震動への対策案について」に関するご意見募集について

1998年の建築基準法の改正にあたり、性能規定化が謳われた。安全限界と損傷限界という用語が導入され、雪荷重や風荷重に対しては、それぞれ再現期間として500年および50年というレベルが設定され、荷重に関しての性能が表現されたものになっている。しかし、地震荷重に対しては、「ごく稀に生じる」と「稀に生じる」という表現になっており、関東地域では、再現期間に換算すると、概ね500年と30年程度とみなせるが、日本全体では、地域係数が1.0、0.9、0.8そして沖縄は0.7と設定され、それぞれの地域において、再現期間としては、大きく幅があり、性能表示になっていない。

今回の地域を特定しての長周期地震動については、想定される断層が地震を起こしたときに伝搬経路や地盤の影響を考慮した応答スペクトルを明示し、最近の地震工学に基づく設定となっているが、それを国の対策として一律に決め、実質的に強制規制とすることは、建築基準法の基本的な位置づけとしても整合性を欠き、かつ科学技術の展開と工学的な判断に対する不当な干渉となることから、強く反対する。

建築基準法は、そもそも最低基準を定めるものである。現在も、時刻歴応答解析を求める建築物に対しては、それ以外の建築物よりも、より高い耐震安全水準を求めていることが、最低基準であることと矛盾し、結果的に、安全水準を行政が規定してしまっている。しかも、その程度を明らかにしていないことから、より安全にしようという動機を抑制してしまっている。言い換えれば、それさえ守れば、国が安全を保障したかのごとき誤解を与え、思考停止の旧弊に陥る。

科学技術の展開は、想定される断層モデルについても日々さまざまに提案されている。また断層モデルのパラメータ設定に対して、安全側に判断することは、意味のあることで、専門家としては、不確実な部分に対してどの程度の性能としての余裕を持たせるかを検討し判断し、建築主と責任を共有するという姿勢こそが求められる。

特定の断層が地震を起こす確率についての知見も整理されており、またパラメータ設定のばらつきについてもさまざまな考えがある中で、国として設定するのであれば、確率の数値を明示すべきである。その場合も、建築基準法の最低基準としての位置づけをあいまいにしたままで、対策として運用することは、極めて問題であり、東日本大震災における東京電力福島原子力発電所の設計津波高さに見られたように、今後も社会的問題を引き起こす懸念を有する。

建築物が、現在の社会において、相応しい耐震性を有するためには、建築基本法を制定し、耐震安全に対する建築主、専門家の責任を明示した上で、行政としては、考え方の一つの手法として公開文書とするという形を取ることが望ましい。今回のような特殊な状況への高度な対応は、個別裁量的に行うべきで、そのためにも、建築基本法は必要と考える。また、このたびの適用は、極めて局所地域的問題でもあり、国土交通省住宅局指導課としてでなく、各自治体において、社会性、経済性なども配慮の上、十分かつ透明性ある議論に基づく規制として、導入すべきであろう。

建築基本法制定準備会 神田 順


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